薬屋、シアトルに移住する

アメリカで薬剤師になるべく奮闘中の日本人薬剤師の日々を綴ります。アメリカで買える便利な市販薬のこととか、英語のこととか。

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飲み忘れ防止率100%?!マイクロチップ内蔵のデジタル錠剤

私のお気に入りのポッドキャスト、バイリンガルニュース。

bilingualnews.libsyn.com

ぼけーっと聞き流していると実は日本語しか聞いてないと気付いてからはあまり聞いてなかったんですが。。笑 今週のニュースの一つが服用記録を管理できるデジタル錠剤?!ということで、久々に聞いてみました。

 

ニュース原文(一例)はこちら↓

www.theverge.com

 

これは薬剤師ブログとして取り上げない訳にはいきません。今週月曜日にFDA(Food and Drug Administration、日本でいう厚生労働省)承認されたばかりの、デジタル錠剤について書いていこうと思います。

 

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デジタル錠剤の仕組み

記事によると砂粒ほどの大きさのマイクロチップ(砂粒よりは大きく見えますが)が、錠剤のレイヤーの中に内蔵されているそうです。こんな感じ。

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錠剤が胃に到達し溶解すると、このチップが胃酸に触れることで患者の胸に貼ったパッチにシグナルが送られます。そのパッチから更にスマートフォンのアプリにBluetoothでデータが送られ、薬を服用した時間と量が記録されます。患者はそのデータを任意で医師に公開することができ、家族など自分の指定した4人までと共有することが可能です。チップはシリコン・銅・マグネシウムで出来ており、体には消化・吸収されず、そのまま排出されます。

 

エビリファイ マイサイト

今回承認されたのはこの”デジタル錠剤”という技術そのものではなく、このチップが埋め込まれたエビリファイという薬で、エビリファイ マイサイト(Abilify MyCite)という名前が付けられています。エビリファイは大塚製薬から販売されている薬で、エビリファイ マイサイトは大塚製薬とProteus Digital Healthという医療機器開発会社との共同研究によって作られました。価格や発売時期などはまだ明らかにされていません。

エビリファイ自体はすでに日本でもアメリカでも認可され、schizophrenia(統合失調症)もしくはbipolar disorder(双極性障害)などに広く使用されています。

 

”デジタル錠剤”技術の活用

エビリファイももちろん飲み忘れてはいけない薬ではありますが、統合失調症の方などは特に、マイクロチップの入った薬なんて聞いたら管理されているような気になり、被害妄想を助長させるような気もします。

私がニュースを聞いて真っ先に思いついたのは抗結核薬への使用でした。ちょっと頻度が少ないでしょうか。毎日同じ時間に服用する低用量ピルやピロリ菌除去セット、抗菌薬なんかも症状が良くなると忘れがちなので良いかもしれません。技術自体はどの薬にも応用が効くと思うので(カプセルなんか、中に入れてしまえば良いので簡単そうですよね)、これからどんどん後続が出てくるのか、はたまた大人の事情で大塚製薬さんが占有していくのか、この先も目が離せません。

 

メリット

飲み忘れ防止になる

指定の時間になってもセンサーが送られないときはアラームが鳴る、などと設定すれば飲み忘れたときもすぐに分かります。

また、医師側からすると処方している薬が効かないとき、患者がきちんと飲んでいるのかどうかを確認するのは非常に難しいものです。服薬状況が分かれば薬が効かないのが飲み忘れのためなのかどうかを正確に確認でき、朝晩2回のうち朝を忘れがちだから一日一回の製剤に変える、といった対処もできます。

遠隔からでもチェックできる

例えば祖父母が遠くに住んでいるとき、普通は薬の管理をしてあげることは難しいです。しかしこの技術があれば、どの薬をどれだけ飲んだかどこに居ても確認できます。たとえ海外に住んでいても、この薬を飲み忘れているよ、とリマインドの電話をしてあげることもできるでしょう。

 

デメリット

プライバシーの問題

薬の服用情報を共有するにはまずは患者の同意が必要で、患者が嫌だと思ったらいつでも送信を中止することができます。しかし中には管理されているようで不快に感じたり、飲み忘れのために必要以上に自分を責めてしまったり、もしくは医師の手前で嫌と言いづらい、といったケースもあるでしょう。

オーバーテクノロジー

飲み忘れ防止のためだけに、果たしてこの技術は本当に必要なのでしょうか。アプリのアラームなどで薬の時間を教えてくれれば、それだけでも飲み忘れはだいぶ減るような気がします。チップまで入れなくても、、という気も正直しないでもありません。

本人の同意が必要

何らかの理由によって薬を飲みたくない患者さんもいるでしょう。その場合、服薬状況を共有することは嫌がるでしょうから、解決にはなりません。きちんと話をしてコミュニケーションをとっていく必要があります。

 

デジタル錠剤の使い方を提案

このデジタル錠剤は飲み忘れ防止のために開発されたものですが、もし錠剤にチップを入れてデータを管理できるとしたら、もっと良い使い道があるのではないでしょうか。ということで考えてみました。

オーバードーズへの対応

もしこの技術が拡大し、どの薬にもチップが導入されるようになれば、大量服薬をしてしまった場合の薬の同定が即座にできます。アプリから何の薬を服用したかが送信されれば対応も迅速にでき、救急車で病院搬送中にすでに解毒剤が投与できるかもしれません。

バイタルサインをデータ送信する

もう既にそういう技術があるかもしれませんが、せっかくパッチを貼らなければいけないのなら、そこから体温、血圧、脈拍、場合によっては心電図などバイタルサインも共有できたら良いですね。例えば突然の心筋梗塞を察知すると自動で救急車に電話をかけ、アプリからその心電図が搬送先の病院に送られるような仕組みができれば、診断も迅速に出来ますし一人暮らしの人でも安心です。

内視鏡検査を代わりに行う

口から服用して体に害はなくそのまま排出されるチップがあるのなら、その中にカメラ機能を付けることはできないでしょうか。つらい胃カメラを飲む必要もなく、大腸に管をつっこまれることもなく、カプセルを飲んで普通に生活している間に胃腸内の写真が撮られ、いつの間にか検査が終わっている、となったら最高だと思います。どなたかがんばって作ってください(人任せ)。

 

まだ市場に出回るまでには時間がかかるかもしれませんが、これから間違いなく期待がかかる分野です!続報に期待しましょう~。