薬屋、シアトルに移住する

アメリカで薬剤師になるべく奮闘中の日本人薬剤師の日々を綴ります。アメリカで買える便利な市販薬のこととか、英語のこととか。

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抗菌薬の適正使用とスーパーバグ

今週は世界抗菌薬啓発週間らしいので、抗菌薬のお話を少し。

 

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スーパーバグとは

スーパーバグという言葉を聞いたことはあるでしょうか。バグといっても虫ではなく、コンピュータの話でもありません。これ、日本語と英語でちょっと定義が違うようです。

日本語では医療分野における、従来の抗生物質がすべて効かない薬剤耐性菌”

英語では”従来使われてきた抗生物質の大多数が効かない薬剤耐性菌”

 ("Superbugs" is a term used to describe strains of bacteria that are resistant to the majority of antibiotics commonly used today)

英語の方が少し広域ですね。要は多剤に耐性を持つ菌というとらえ方で良さそうです。

 

スーパーバグの誕生経緯

このスーパーバグですが、人間が抗菌薬を使用し、菌がそれに生き残れるよう耐性を獲得、人間がそれにも打ち勝つ新しい抗菌薬を開発し使用、さらに進化した菌が誕生、といういたちごっこが行われてきた結果生まれました。

問題はこれを作り出しているのは人間であり、今後もさらなる強力なスーパーバグが生まれる可能性があるということです。

このままいくと、数十年後には「肺炎ですが、現時点でこの菌に有効な薬は残念ながら何もありませんので、様子を見るしかありません」なんてことが起こるかもしれません!

 新たなスーパーバグの誕生を少しでも防ぐ、もしくは遅らせるために、医療人ではなくても個々人で出来ることを挙げてみたいと思います。

 

スーパーバグの誕生を防ぐ

不要な抗生物質の使用を控える

風邪に抗生物質は百害あって一利なし、というのは医療関係者の常識ですが、アメリカ人の中でも割と常識です。しかし、残念ながら日本人の中では常識というまでには浸透していないように感じます。

 

以下はアメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)の出している抗菌薬の使い方ガイドラインです。

www.cdc.gov

風邪の欄(common cold)を見てみると、治療法には抗菌薬のこの字も書いてありません。現因として200種類以上のウイルスが確認されています、と。ウイルスに効くのは抗ウイルス薬です(現在風邪の抗ウイルス薬はありません)。抗菌薬はもちろん効きませんし、無駄に耐性菌誕生のチャンスを増やすだけです。

風邪で医者に行って、こんなにつらいのに抗生物質は処方してくれないんですか、とか言うのはやめましょう。つらいとかそういう問題ではありません、効かない薬を飲むなんてナンセンスです。

抗菌薬をきちんと使う医者を選ぶ

そもそも抗菌薬をきちんと使うとはどういうことでしょうか。何らかの感染症が疑われる場合、一番良いのは組織から培養し、何の菌がいるかをきちんと調べて、その菌のみに効く抗菌薬を使うことです。しかしこれだと時間や手間がかかったり、その間に悪化してしまう可能性があるため、症状や部位から医師が推察して抗菌薬を処方することがあるのです。

このとき簡単で最悪なのは、何にでも広範囲に効く抗菌薬を使うこと。医師の考える手間は省けますし、高確率で当たるため症状は良くなります。あのお医者さんのくれた薬は良く効く、といった評判がたったりします。その場は良いかもしれませんが、これを繰り返すことで必要以上の菌が殺され、耐性菌の誕生につながるのです。

これは抗菌薬に限ったことではないですが、抗菌薬を処方されたときは、どうしてあなたにその薬が必要なのか、何故他ではなくその抗菌薬なのかという理由をきちんと説明してもらってください。

処方されたときは用法どおりきちんと飲み切る

きちんと信頼できる医者が処方したのなら、その抗菌薬は本当にあなたに必要なものなのです。症状が良くなってもきちんと飲み切ってください。

中途半端にやめると、本来ターゲットにしていた菌が生き残ります。症状自体は良くなっても、この少数の生き残りが耐性菌となる確率があるのです。

 

アメリカでは抗菌薬の処方に対する規制がどんどん厳しくなっています。日本でも院内感染チームが活躍したり抗菌薬の適正使用に向けて様々な活動が起こっているようです。これは医療従事者だけで何とかなる問題ではないので、次に病院に行くときにでもふと心の隅で思い返していただければ幸いです。