理想的?薬剤師主導の抗凝固療法マネージメントシステム in アメリカ
さてさて、アメリカの病院で働き始めてこりゃすげぇや!と思ったことの一つについて書きたいと思います。それがanticoagulant management services、略してAMS。
抗凝固療法とは、たとえば脳梗塞や心筋梗塞後など血栓のリスクがある患者さんに、ワーファリンを始めとするいわゆる血液サラサラの薬を使って血栓ができないよう予防もしくは治療をすることです。INRと呼ばれる、血液が固まるまでの時間を数値化したものがあり、これを指標にワーファリンの量を決定します。そのため、人によって1mgがちょうど良い人もいれば、5mgが良い人もおり、まちまちです。
では具体的にどんなシステムなのか、見ていきましょう。
日本での一般的な抗凝固療法のやり方
医師が処方し、薬剤師が確認する一方通行
例えば脳梗塞で入院し、ワーファリンの服用を開始したとします。入院中は数日おきに血液検査をし、INRがちょうど良い数値になるよう服用量を決定します。
しかし退院すると、血液検査をするのはせいぜい数か月に1回、下手すると半年に1回程度だったりします。薬局では患者さんからINR値を聞く程度しか出来ず、何か気になることがあっても医師に次回採血をしてもらうよう指導する程度でしょう。
このINRという数値は熱が出るなど体調の変化や食事、他の薬の影響でも変動するのですが、残念ながらそれをモニターできる人がいません。
そこでAMSの出番です!
AMSとは?
抗凝固療法のスペシャリストたち
AMSは抗凝固療法のトレーニングを受けた薬剤師を始め、ナースプラクティショナー(という看護師と医師の間のような、、処方権を持った看護師)、看護師、メディカルアシスタントといったメンバーで構成されます。
患者さんが直接訪れることはないので、うちのAMS部門はオフィスビルの一画にあります。が、これは病院によってまちまちだと思います。
具体的な処方例
いさぎよいほどの丸投げ処方箋
Take as directed by AMS
(AMSの指示通り服用してください)
Take 2 tablets (4mg) on 11/1, 1 tablet (2 mg) on 11/2 and as directed by AMS there after
(11月1日は2錠、2日は1錠服用、それ以降はAMSの指示通り服用してください)
のように処方箋が発行されます。錠数は適当に、50錠だったり100錠だったり。
あとはAMSが採血結果と患者さんの食生活など聞き取りを行い、服用する量を決定していきます。医師がINRのコントロールに時間を割かなくて良くなる上、1人1人の患者さんをしっかりモニターすることができます。
(以下、ここちょっと薬剤師さん向け)
ちなみにアメリカではエノキサパリンみんな自己注します。術後も妊娠中も。
エノキサパリンからワーファリンへの切り替えなどもAMS主導で行います。
ワーファリンがどうしても安定しないからダビガトランに切り替えよう、この患者さんはダビガトランが保険でカバーされないからアピキサバンにしよう、といった個々の対応もAMSにお任せあれ。これ日本でもぜひやりたいです、NSTみたいな感じで。
(意味分からなかった方すみません)
AMSと他の薬局とのコミュニケーション
患者さんがいつもと違う薬局に行ったらどうする?
処方箋に必ずAMSの電話番号を入れることで、他の連携していない薬局に薬をもらいに行ったときも、その薬局から連絡をもらうことができます。抗菌薬などINRに影響を及ぼすおそれのある薬が処方されたときは、連絡をもらってAMSが血液検査をオーダーします。
患者さんは好きなクリニックに採血をしに行き、AMSが結果を確認、用量の変更があるかどうかを電話で患者さんに伝えます。
複雑なケースは主治医に連絡を入れディスカッションすることもありますが、基本何も問題がなければ執刀医や主治医はほったらかしです。
アメリカの役割分担システムは一長一短だと思うのですが、このAMSシステムはすごく効率的ですし、私は好きです。
私の初めての病棟薬剤師経験が脳外科と整形外科だったので(どっちも血栓がキモなのです)、抗凝固療法にはちょっとゆかりがあるのです。日本に帰ることになったら取り組んでみたいことの一つ。
学校が始まったらもっと学ぶこともあると思いますので、またご紹介しますね。