薬屋、シアトルに移住する

アメリカで薬剤師になるべく奮闘中の日本人薬剤師の日々を綴ります。アメリカで買える便利な市販薬のこととか、英語のこととか。

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日本でも導入検討中?アメリカ移住薬剤師からみたリフィル処方箋のメリット・デメリット

なにやら日本の薬局業界でもリフィル処方箋の導入が検討されているという噂を耳にしました。日本とアメリカどちらの薬局も経験した私の視点で、日本で導入した場合のメリットやデメリットを考えてみました。

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リフィルとは?

Refillという言葉自体は薬学用語ではなく、詰替とかおかわりといった意味合いがあります。カフェでRefillといえばコーヒーのおかわりのことですし、洗剤や文房具など割と何にでも使える便利用語です。

リフィル処方箋というと、繰り返し使える処方箋のこと。処方箋にRefillという欄があり、医師が0~11の数字、もしくは必要に応じて何回でも、といったコメントを入力します。日本では処方箋の期限は4日ですが、アメリカでは制限のある薬(Controlled Drugs)を除いて1年。その間に薬がなくなった場合は医師の診察なしで薬局に行くだけで薬を受け取ることができます。

 

リフィル処方箋の使い方

処方箋は電子的に送信されてくることがほとんどですが、紙の処方箋もあります。どちらにせよ、リフィルの時は患者さん自身が用意するものは特にありません。オンライン、電話、もしくは薬局に直接出向いてどの薬が必要かを伝えます。薬局の店頭で待たなくてすむよう、できるだけ数日前に注文をしてからとりに来ていただくようにお願いしています。

 

リフィル処方箋導入のメリット

待ち時間が減る

リフィルは既に一度薬剤師のチェックを受けた薬ですので(用量や相互作用など)、監査の時間が短縮されます。また、あらかじめ電話などで注文することで薬を前もって用意しておくことができ、薬局に到着したときにはすべて準備が整っているという状況になります。病院に行かなくてすむため、病院での待ち時間も当然なくなります。

頻繁に医者に行く必要がなくなる

薬局は病院やクリニックに比べて長めに開いていることが多いです。リフィルが使えれば、仕事が忙しくて薬局に電話一本入れるだけで注文ができ、仕事帰りに受け取りに行くといったことも可能になるでしょう。

医療従事者の負担軽減

医師も症状の安定している慢性期の患者さんに必要以上に時間を割くことなく、緊急度の高い患者さんや他の業務に集中できます。もちろん経過観察の必要な患者さんにはリフィルは出さず、また次回診察に戻ってきていただけば良いだけです。薬剤師という視点からは、薬局薬剤師の職能が拡大されるのもメリット。

医療費の削減

例えば手持ちの薬が余っていた場合、単純にその薬のリフィルを注文しなければすむだけなので、無駄な薬を毎回受け取る必要がなくなります。医師の診察が少なくなる分、病院の診療費も削減されるでしょう。

 

リフィル処方箋導入のデメリット

転売の危険性

薬を手に入れるのが簡単になることで、転売されるのではないかという問題です。が、そもそもほとんどのオピオイド(高く売れる)は日本では適用が少なく、処方頻度自体がものすごく低いのでリフィル関係なく手に入れることは難しいでしょう。あとは向精神薬などでしょうが、そういった現在処方制限のあるものはリフィルも制限付きになっていくと思いますので、リフィル制度を導入=転売増加となる、とはちょっと考えにくい気がします。

ITシステムの遅れ

リフィル制度を導入すると、処方箋の期限(4日)も変わってくることになると思いますが、これがもし数か月や半年などなってくると、リフィルを受ける度に日付を確認するのはなかなかの手間です。リフィル回数も手動で数えるのはなかなかに無理があります。リフィルを受ける度に3ヶ月前の紙の処方箋を引っ張り出して、などとやっていては薬剤師さんの負担がとんでもないことになるため、導入前にIT業界さんにもう少しがんばってもらう必要があると思います。

薬剤師の負担増加

リフィルの注文・調剤も加わることで業務量も増えるはず。現状の薬剤師+医療事務のみでは、薬剤師が薬のピッキングなど単純作業に時間を割かれ、職能が拡大するどころか逆効果になってしまう気がします。調剤の機械化やテクニシャン制度などの導入を先にするべきでしょうか。

不要な薬の漫然投与

リフィル制度の有無にかかわらず、薬を中止するタイミングというのは難しいものです。リフィルが導入されることで、とりあえずもらえるものはもらっておこう、と症状もないのに必要以上に漫然と飲み続けてしまうことが起こり得ます。

アメリカで何故この状況にならないのかというと、保険制度の違いです。アメリカでは保険請求の結果はコンピュータを通じてその場で分かります。例えばある薬は、指定の薬を試したけど副作用やアレルギーがあった人だけ使用が可能。またある薬は血液検査の値を数ヶ月おきに送信し、指定の範囲内だった場合のみ使用可能。年齢制限のある薬なんかもあります。どうしてもその患者さんに必要な場合は、医師もしくは薬剤師から保険会社へ医療的必要性の説明をすることで例外が考慮されます。この厳しく複雑な保険制度のおかげ?で、必要な薬以外は自然とカットされていくのです。一長一短ではありますが、無駄な薬の処方が少なくなるというのは事実です。

患者の主体性の不足

私が一番ネックだと思っているのは実はこれです。日本の文化背景上、餅は餅屋、プロの方にすべてお任せしますという態度の方が多いのです。言われたことに従順で、”良い患者”とも言えるのかもしれないのですが、、このリフィル制度との相性は悪いです。なぜなら処方箋を持参した場合は、何の薬だか分からないけどとりあえず先生が出した薬ちょうだい、というのも可能ですが、リフィルになってくるとどの薬が必要なのか患者さん自身にきちんと把握していただく必要があるからです。例えば薬の名前が分からず血圧の薬、などと言われても高血圧にも頻脈にも心臓病にも使用されるような薬もありますし、何種類も血圧の薬を飲んでいる場合そのうちどれが必要なのかなんて薬局側では分かりません。

何の薬が欲しいのか分からない患者さんを助けるのはなかなかに大変です。業務量的にも、この間の白くて丸い薬、などというリクエストに一人ひとり対応していくのは無理でしょう。

 

以前記事に書きましたが、アメリカ人が薬に対して意識が高いのはこのリフィル制度も大いに関係していると思うんです。

kusuriya-us.hatenablog.com

 

ということで、何だかデメリットに力が入ってしまいましたが、私は推奨派です。日本の薬剤師はもっといろんなこと出来るはず、と常々思っています。もっと薬学的知識が必要な業務にシフトしていく第一歩になれば良いなぁと思います。リフィル処方箋、あなたはどう思いますか?